×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
ちょっとした文 くどうきのでーす
-------------------
月のきれいな夜だった。なんて使い古した話の入りだけど、今日は本当に清々しい月だった。木野とふたりで白い息をつきながら、いつのまにか商店街に入って冷たい夜気の中を歩く。といってもまだ六時で、夏だったら明るいのにな、と思う。首もとが寒くて手先もしびれるけど、僕は冬の空気って結構好きだ。息のできる水の中みたいだなんて言えばまた笑われるんだろうな、勿論泣かせてやるけど。そんな隣の木野はというと肩をちぢめてふるえている。小動物みたい、とこっそり思った。うさぎとかああいう。
「寒いの?」
わかりきったことを聞いた。木野は眉を寄せた横顔で無言でうなずく。街灯や店先の明かりにさらされて、跳ねた前髪の奥に白い耳が見える。白い頬が少し赤い。きっとつめたい。あたたかくなれる方法を知っている。誘い込む手口を知っている。本の受け売りだけどすべてわかっている。でもしない。僕は木野に何もしない。何も言えない。こいつが僕をぜったい殴れないみたいに。こいつが僕に決して存在否定をしないみたいに。
「うち来て何か作れよ、今日母さんいねえからレトルトしかない」
かすかな鼻声で命令された。どうかと思うんだそういうのと僕は思った、二重底で。それでも僕は、いいですよ、と答えた。いやなひとだ。木野は少しこちらを振り向いて笑った。苦笑いみたいなあっけらかんみたいな笑顔を向けた。こいつは僕をこてんぱんにたたきのめす方法を知っている。知らず知らず。いやなひとだ。
「じゃあ材料買っていこう、木野のおごりで」
「言われなくてもそうするよ」
「いいのに」
「どっちだよ」
軽口は軽やかだ。秘めた言葉はずっしりと錆びて僕の目玉の中にでも鍵をかけて置いてあるだろう。こいつがいつも褒める僕の目玉。ええとあと睫と声と顔。あとなんだっけ、それでいて別にそうやって好きじゃないなんておかしいんじゃないかと思う。人形だったら抱いてもらえたかなあ。あ、いや変な意味ではなくて。頭の中の軽口も止まらない。口に出す軽口も止めない。止めたらおかしい言葉をはくかもしれないから、って既におかしいんだけどね。
「あれいっぺんやりたい、カレーなべ」
「僕は普通のがいい」
「んだよ、じゃあシメがラーメンでうまいやつ」
「漠然としてるなあ…豆乳は?」
「うわー女子みてえ、いいけど」
木野はけらけら笑う。僕もくすくす笑う。スーパーはまだちょっと遠い。商店街の明かりは結構きれいです。このまま延々と続けばいいのに、道が夜が彼と僕が。安い歌みたい。木野はうさぎみたいに少女みたいにベルの音みたいに華奢でもない均等な男子のまま歩いていく。安いポエムだ。僕は想像と欲望と空腹をこねまわしてふと彼にかみついてみられる存在に生まれたらよかったのにと考えた。すぐ忘れた。
-------------
月の街角はるばると
月のきれいな夜だった。なんて使い古した話の入りだけど、今日は本当に清々しい月だった。木野とふたりで白い息をつきながら、いつのまにか商店街に入って冷たい夜気の中を歩く。といってもまだ六時で、夏だったら明るいのにな、と思う。首もとが寒くて手先もしびれるけど、僕は冬の空気って結構好きだ。息のできる水の中みたいだなんて言えばまた笑われるんだろうな、勿論泣かせてやるけど。そんな隣の木野はというと肩をちぢめてふるえている。小動物みたい、とこっそり思った。うさぎとかああいう。
「寒いの?」
わかりきったことを聞いた。木野は眉を寄せた横顔で無言でうなずく。街灯や店先の明かりにさらされて、跳ねた前髪の奥に白い耳が見える。白い頬が少し赤い。きっとつめたい。あたたかくなれる方法を知っている。誘い込む手口を知っている。本の受け売りだけどすべてわかっている。でもしない。僕は木野に何もしない。何も言えない。こいつが僕をぜったい殴れないみたいに。こいつが僕に決して存在否定をしないみたいに。
「うち来て何か作れよ、今日母さんいねえからレトルトしかない」
かすかな鼻声で命令された。どうかと思うんだそういうのと僕は思った、二重底で。それでも僕は、いいですよ、と答えた。いやなひとだ。木野は少しこちらを振り向いて笑った。苦笑いみたいなあっけらかんみたいな笑顔を向けた。こいつは僕をこてんぱんにたたきのめす方法を知っている。知らず知らず。いやなひとだ。
「じゃあ材料買っていこう、木野のおごりで」
「言われなくてもそうするよ」
「いいのに」
「どっちだよ」
軽口は軽やかだ。秘めた言葉はずっしりと錆びて僕の目玉の中にでも鍵をかけて置いてあるだろう。こいつがいつも褒める僕の目玉。ええとあと睫と声と顔。あとなんだっけ、それでいて別にそうやって好きじゃないなんておかしいんじゃないかと思う。人形だったら抱いてもらえたかなあ。あ、いや変な意味ではなくて。頭の中の軽口も止まらない。口に出す軽口も止めない。止めたらおかしい言葉をはくかもしれないから、って既におかしいんだけどね。
「あれいっぺんやりたい、カレーなべ」
「僕は普通のがいい」
「んだよ、じゃあシメがラーメンでうまいやつ」
「漠然としてるなあ…豆乳は?」
「うわー女子みてえ、いいけど」
木野はけらけら笑う。僕もくすくす笑う。スーパーはまだちょっと遠い。商店街の明かりは結構きれいです。このまま延々と続けばいいのに、道が夜が彼と僕が。安い歌みたい。木野はうさぎみたいに少女みたいにベルの音みたいに華奢でもない均等な男子のまま歩いていく。安いポエムだ。僕は想像と欲望と空腹をこねまわしてふと彼にかみついてみられる存在に生まれたらよかったのにと考えた。すぐ忘れた。
-------------
月の街角はるばると
PR
この記事にコメントする