[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
夏の近い今は日暮れが遠い。俺と久藤は黙々と書架の整理をしていた。本来の当番は俺と大草さんなのだが、今日は急なバイトが入ったとかで、俺に数学のノートを頼んで早退していた。一人ならさぼろうかと思ったけど来てみたら久藤がいて、適当に喋っていたらふらりと立ち寄った糸色先生に仕事を任されてしまった。もう置いておけないくらいに傷んだ本や間違った場所にしまわれている本を抜き取っては積み上げる。正直単調だった。
「飽きた」
ぽつりと呟くと、久藤が無表情にこちらを見た。その手元には開いた文庫本がある。
「お前何で本読んでんだよ」
「ああ、ごめん」
言いながらもめくる手を早めるだけで戻そうとはしない。俺は呆れ顔をしながらひとつ上の段に手を伸ばす。古い本を扱うと指を切ることは少なくても埃まみれになるのが嫌だ。
背表紙をなぞっていくと、また番号の違うものがあった。隙間なく押し込んであるから、指をかけてもなかなか出てこない。これやったの木津じゃないだろうな。いや、あの子なら番号まで揃えるか。
「飽きたんなら、話でもしようか?」
その声に手を止めて久藤を見ると、冗談みたいにばらららっと残りのページに目を通して、本を書架に戻してしまった。
「はい、読み終わった」
「お前それ読んだって言わねえだろ」
「どっちなの」
坊さんのやるお経の虫干しか、と思ったがそのツッコミは古風すぎる気がして言うのはやめた。読むなって言ったり読めって言ったり、と久藤が呟いた。読むんならちゃんと読めよ、と俺は久藤の頭を手の甲ではたいた。あっちこっち跳ねた黒い髪は案外硬くて痛かった。
「…今日は何の話なんだ」
「何個かあるよ。そろそろ暑いから、海の話なんてどうかな」
「任せる」
「了解」
久藤は何の気もなさそうに短く告げた。俺は奴に背を向けて作業を再開した。時折番号が読めなくなってしまうだろうことは予想できたけど、でも夏が近いから日暮れは遠いのだ。